夢を見た。一座で山を越えようとしている。皆、軽装の山行きを着ている。何人かはチンドン屋の装束のままだ。おれは普段着だけれど、ズボンの膝から下は雨に濡れて色が変わってしまった。雨水が入った運動靴は歩く度にぴちゃっびちゃっと嫌な音がする。自転車を押している。さっきの峠でファゴットや楽譜の束をくくり直したので、輪行バッグが荷崩れするようなことはない。ようやく体育館のような芝居小屋に到着した。外壁が粗末なベニヤ板で覆われていることが一目見て判る。入ってみると、かつての上司がマイクを握りしめて唄っていた、いつもの持ち歌を。こっちこっちと手招きするのは、人気者だったクラリネット吹きだ。誰かに嫁いでいなくなったはずなのに、こんな山奥にいたのか。車座に加わるおれの姿を認めた元上司が、まともにできもしねぇのに、芸人とは笑わせる、と吐き捨てるように言う。それがマイクを通して小屋中に響く。日本語の怪しいおねえさんがやって来て、おれに小さな紙きれを渡した。プーランクのフルート・ソナタなど数曲が並んでいる。一番下には今夜のお値段だ。これは払えないな、と思っていると、目が覚めた。
その小屋は、時々、夢の中に現れる。山の中にあって体育館のように大きい。それはあのイメージと重なる。マナウスの鬱蒼と茂ったジャングルにかつてあったと言う、今もあるのかもしれない、オペラハウスだ。