ハイドンのセレナーデ
- 2019/05/30 18:23
- カテゴリー:音楽
「ハイドンのセレナーデ」という、とても愛らしい曲がある。弦楽四重奏曲ヘ長調の第2楽章アンダンテ・カンタービレのことだ。それも含めて1から4楽章まで曲全部がそう呼ばれもする。ハイドン(Franz Joseph Haydn、1732-1809)の作品目録で、作品番号3の5、とリストされている。が、これは、ホフシュテッター(Roman Hoffstetter、1742-1815)なる人物が作曲した、という説がある。ハイドンのリストにあるのは、偽作じゃないかと疑われているわけだ。
一つ前で書いたように、手元にイタリアQの「セレナード」がある。これを久しぶりに聴いてみた。ハイドンらしさを備えているし、同じ頃の彼の作品と比べても遜色ない、と、おれには聴こえる。果たして偽作なのだろうか。ざっと調べてみた。
結論としては、偽作と確定されたという記述を見付けられなかった。ホフシュテッター説を最初に提唱した、64年の文献にも当たってみた。"we think" のレベルであり、その説、つまり偽作説を合理的に証明しているわけではない。とは言え、ハイドンの自筆譜は残っておらず、真作とも言い切れない。音楽の書式から真偽に迫らんとするアプローチもあるが、それとて推測の域にある。今後、センセーショナルな証拠でも発見されない限り、作者はハイドンなのかホフシュテッターなのか、はたまた第三者の手によるものなのか、ずっと決められないままになるだろう。
以下、演奏例や、楽譜、文献。いずれも、きのう(19/5/29)アクセスした。
- File:2-06Ii.AndanteCantabile.ogg
- String Quartet in F major, Hob.III:17 (Hoffstetter, Roman), IMSLP
- Anthony van Hoboken: "Joseph Haydn, Thematisch-bibliographisches Werkverzeichnis", Band I (1957), p375-378, B. Schott's Söhne
- Alan Tyson, H. C. Robbins Landon: "Who composed Haydn's Op 3?", The Musical Times, Vol.105, No.1457 (1964), p506-507, JSTOR 949842
- Günther Zuntz: "Die Streichquartette op. 3 von Joseph Haydn", Die Musikforschung, Vol.39, No.3 (1986), p217-239, JSTOR 41119911
- 福田陽: "ハイドン作とされる作品3の弦楽4重奏曲の考察", ハイドン研究室
- Allan Badley: "About this Recording", Joseph HAYDN, attrib. to Romanus Hoffstetter: String Quartets Op.3, Nos.3-6, Kodály Quartet, Naxos 8.555704 (2002), NHN International Ltd.