金鵄のもとに
- 2024/07/18 05:56
- カテゴリー:読み物
俺は、ブーゲンビルにいた。証拠だと? そんなものあるか。証拠はこのおつむの中の、記憶だけだよ。
染井に声をかけて来た男もブーゲンビル島からの帰還兵だった。浅田次郎著「帰郷」(集英社文庫、2019年)に所収の「金鵄のもとに」から(p206)。
命からがら帰国した染井は、男の誘いに乗って、傷痍軍人になる道を選ぶ。人様の施しを受ける、特に米兵の投げるドルだ、それが生き抜くための「最善にして唯一の方法」だと考える。この話、どうも後味がよろしくない。
傷痍軍人の姿が記憶の中にある。母に連れられて明石駅へ出る度に見かけた。まだ就学する前だったから、1960年代の後半ということになる。考えてみると、戦争が終わって既に20年は経っていた。その頃でも彼らは街頭にいたんだな。