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将棋の子

  • 2022/02/11 06:29
  • カテゴリー:読み物

夢を目指す人間は、閉ざされたときの覚悟はできている

大崎善生著「将棋の子」(講談社、2001年)から(p178)。

自分のことを「こっち」と言う成田英二はじめ、夢を閉ざされ棋士になれなかった男たちの物語が綴られている。舞台は、棋士養成コースである奨励会。プロを目指す天才たちが全国から集まって来る。街の将棋教室で大人たちにも負けなかった少年たちは、ひと度この天才集団に入るや自分が平凡な存在であることを思い知らされる。

成田は、高校生の時に奨励会に入る。5年後、まだプロになれず悶々としている頃に、羽生善治が入会して来る。この10歳年下の「子供」に勝てない。奨励会での成田の対羽生戦は「0勝4敗」だった。その後の二人の歩みは惨たらしいほどに対比を見せる。羽生が弱冠15歳で奨励会を突破しプロ入りを果たす一方、前後して、成田は奨励会を退会。片や七冠すべてのタイトルを制覇し1億円プレーヤとなる。片や夢破れて故郷に帰り「落ちるところまで落ちる」。

成田は、ビル解体清掃業やパチンコ店などの職を転々とし、本書の著者が訪ねて行った時には、古新聞回収業者に雇われていた。全寮制で月々の手取り1万から2万円の「ほとんど無収入に近い状態」。サラ金に借金もある。恋人に会いにも行けない。それでも奨励会を退会した時に記念でもらった駒は肌身離さない。将棋を「自分の支え」に生きている。

切ない物語もエピローグを読むと救われる。後日譚が少し語られるのだ。「その駒を眺め消えかけていく勇気を辛うじて振りしぼった」彼に拍手を送りたい気分になった。

※敬称略

文庫100冊聖の青春(いずれもサイト内)。羽生善治|Wikipedia、羽生善治九段、A級から初の降級 連続29期で途絶える 順位戦(毎日新聞、2/4)。沢木耕太郎著「敗れざる者たち」。「末路哀れは覚悟の前やで」四代目桂米團治。敗者の背中に学ぶ 挑戦の価値大切にしたい(産経新聞、2/11)

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