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かけおちる

  • 2022/05/02 06:12
  • カテゴリー:読み物

自分はなにも見えていない。己の目で見ている気になっているが、実は見ているつもりで終わっているのだ。あるいは見たいものだけを見て、見たくないものには目を向けようとしない。

小藩の執政、阿部重秀は、60歳を前にして、そのことに気付く。家族が一度ならず出奔した、その本当の理由を今知ろうとしている。引用は、青山文平著「かけおちる」(文春文庫、2015年)から(p235)

重秀の娘婿、長英は留守居役助(すけ)として江戸に詰めている。仕事は「興産掛」。現代風に言うと事業開発担当になるだろうか。建議(テーマ提案)の材料をぽつぽつ国元へ送るのだが、どれ一つ陽の目を見ることはない。「力足らずが骨身に沁みる」。他人事とは思えない。身につまされる。

事業の開発には時間がかかる。成功した時に提案者の自分がそこにいるとは限らない。あなたのテーマが事業化されました、と転職先で連絡を受けたこともあった。長英の場合も、そこにいなかった。提案したサケ事業が上手く行き始めていることを知らずに命を絶ってしまうのだ。墓前で誰かが報告するのを、あの世で聞くのだろうか。

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