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デルフトの眺望

  • 2022/06/15 06:27
  • カテゴリー:読み物

フェルメールは、厳密な視覚的観察から離れても余裕があるようだ。デルフトの誰にとっても、その表現が不正確であることが明らかな絵画をフェルメールが描いたのであれば、室内図表現では、どれほど自由に描いていたことだろうか。

デルフトの街並みが描かれた「デルフトの眺望」は、「一見すると現実に即しているように見える」(p254)が、実際には「大まかにしか正しくなく、建物の比率や位置関係は操作されている」。引用は、ゲイリー・シュヴァルツ著「フェルメールの世界-拡大図でたどる静謐の物語」熊澤弘訳(パイインターナショナル、2022年)から(p26)。最寄り図書館の新着本コーナーにあった。

マルセル・プルーストが「失われた時を求めて」の中に、この絵に描かれた「黄色い小さな壁」を登場させた。これにより、「フランスでのヨハネス・フェルメールの存在を不滅のものとした」(p261)。その「壁」は絵の中にいくつか候補があるものの特定には至っていないらしい。

この絵画を所蔵する王立マウリッツハイス美術館(ハーグ)を訪ねたのは2003年12月のことだった。土曜日なのに、館内は閑散としていた。なにせオフシーズンで、しかも雨。しっかり降っている。2時間ほど滞在した間に人は数えるほどしかやって来なかった。「デルフトの眺望」や「真珠の耳飾りの少女」を、たっぷり味わうことができた。

その翌月(2004年1月)、ブラウンシュヴァイクを訪ねた折も土曜日だった。目当てはフェルメールの「ワイングラスを持つ少女」。がらがらの館内で学芸員の方と少し話をした。シーズンともなると団体がバスで押し寄せるけれど冬は静かなもんです、じっくり観るには寒い今頃がいいですよ、彼はそんなことを言った。

フェルメール(サイト内検索)。Gary Schwartz, Vermeer in Detail (Ludion 2017)、ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展(2022年、東京、札幌、大阪、仙台)

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