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中国が戦狼外交を転換か

軍備が理由で互いを信頼できないのではありません。互いを信頼できないから軍備を行うのです。

米レーガン大統領による演説から。この中で、ソ連のゴルバチョフ書記長に対し、ベルリンの壁を壊せと諭す。映画「アトミック・ブロンド」(2017年)で引用されていた。壁崩壊前後の東西ベルリンを舞台にしているこの映画では、当時のニュース・フィルムが度々登場する。[Filmarks 3.6]

中国は、2023年の年明け早々、外相が米国へ協力関係推進を呼びかけ、強面スポークスマンの左遷も行った。これまでの過激で好戦的な「外交姿勢を転換させたのではないかとの期待がふくらんだ」。背景には、「ゼロコロナ政策で疲弊した経済復活のため、欧米との関係改善を図りたい事情」や、「ウクライナ侵攻をめぐり、友好国ロシアと距離を置く」意図があるようだ。東京新聞の社説「中国の戦狼外交 転換本物か見極めたい」(2/15)がそう伝えている。

中国の戦狼外交からの転換について社説で述べたのは、在京六紙の中では東京新聞以外にはない。さすが、多様性や寛容に敏感な同紙だけのことはある。と思いきや、米国による偵察気球撃墜への対応の件で「戦狼の地金が出た」、協調外交は打算的な演出に過ぎず、習近平政権の「世界秩序に挑む姿勢」に変化はないのではないか「しっかり見極める必要がある」と冷やかな目を向ける。

そう懐疑的にならずに、もう少し、信用や信頼を養う姿勢があってもいいのでは。ロシアと離れたら親しい友はもう誰もいない、と中国は感じている。日本は、手を差し伸べて、信頼関係を回復する絶好の機会ではないか。「互いを信頼できないから軍備を行」おうとしている今、日中の関係次第では、軍備増強の議論に関して違う観点が得られる可能性がある。新聞は、近隣諸国、特に大国、中国へのより良いアプローチについて、もっと意見すべきではないだろうか。

さて、2/13wの六紙社説は、そのほかに、日銀新総裁、国産旅客機撤退、臓器斡旋事件、マスク着用緩和、原発60年超容認、戸籍に読み仮名、偵察気球への対策、スマホアプリ市場寡占、核ごみ最終処分、被爆2世の救済、H3ロケット中止などを題材とした。

六紙社説、ABEMA(いずれもサイト内)。Remarks on East-West Relations at the Brandenburg Gate in West Berlin | Ronald Reagn Presidential Library & Museum、アトミック・ブロンド|Wikipedia

人権意識、政権と新聞

「隣に住んでいたら嫌だ」と、LGBTや同性婚カップルを差別する発言をした荒井勝喜首相秘書官が更迭された。在京六紙は揃ってこれを社説で採り上げた。

「更迭は当然」(毎2/5、産2/5、東2/7、経2/7)、「驚きあきれる」(朝2/5)、「度を越している」(読2/7)と、各紙とも差別発言をした首相側近を許しはしない。では、これに対してはどう考えるのか。荒井氏の言葉が引用されている部分(毎2/5)、

「秘書官室もみんな反対する」とも述べた。

差別意識を持っている首相秘書は自分一人じゃない、と荒井氏は白状した。たまたま本音を吐いてしまった者がクビにされて済む話ではない、ほかにも更迭されるべき秘書官がいるのだ。新聞の社説は、差別主義者をあぶり出せ、と容赦なく質すべきではないのか。「政権の人権意識の欠如が厳しく問われねばならない」(朝2/5)、「周囲にこうした考え方を容認する空気があったのでは、との懸念が拭えない」(経2/7)、せいぜいその程度で、六紙社説は揃って鈍感ぶりを発揮している。

ところで、「みんな反対」発言は、毎日のほかに朝日の社説も引用している。が、「述べたという」と伝聞になっている。「述べたとされる」という表現もある。この辺りの事情について「政界地獄耳」(2/9)が教えてくれている。荒井氏の差別発言はオフレコを前提とした懇談の場でなされ、朝日はそれに「参加していなかった」と。

オフレコの禁を破って報道したのは毎日だった。それについて六紙社説では、読売が唯一コメントしかつ批判している。「取材される側が口をつぐんでしまえば、情報の入手は困難になり、かえって国民の知る権利を阻害することになりかねない」(読2/7)と。オフレコの約束を厳守すべきであって、たとえ政権中枢の差別主義者であっても指弾すべきじゃなかった、どうやら、そういう論調のようだ。どこかが禁を破らなければ、各紙、黙り通したのだろう。新聞の人権意識は一体どうなっているんだ。政権中枢からの差別発言に対してとやかく言う資格はあるのか。

さて、2/6週の六紙社説は、そのほかに、中国の偵察気球、日産とルノー、東京五輪談合逮捕、トルコ大地震、バイデン氏一般教書演説、闇バイト強盗指示役逮捕、日比首脳会談、三菱重工旅客機撤退、北朝鮮軍事パレード、日銀次期総裁などを話題にした。

六紙社説(サイト内)。政界地獄耳「オフレコ懇談、参加可否の論議を」(日刊スポーツ、2/9)

「探る’23」

未来の地質学者は、この時代の地層から、おびただしい量のプラスチックや核実験の生成物であるプルトニウム、重金属などを見つけることになるだろう。コンクリートなど地球上の人工物が、総重量で生物を上回ったとの試算もある。

地質年代は「人新世」に入ったのではないかと言われる。横文字ではAnthropocene、人の世という意味のギリシャ語に由来するらしい。引用は、毎日新聞の社説「探る’23 人新世の地球 成長の方程式改める時だ」(1/6)から。

もはや限界の大量消費モデル、そこからの転換を図るためには、「短期的な利益や効率を優先する経済構造を変えなければならない」、GDP偏重を見直し「経済を評価する物差しを変える必要がある」と説く。

1月、同紙はこの社説と同じく「探る’23」を冠したシリーズで将来を展望した。元日に始めて30日までに合計11本。1月の同紙社説は、全部で49本だったので、2割以上をこのシリーズに費やしたことになる。

扱ったテーマは、民主主義の再生、米中と国際秩序、安全保障、大量消費モデルの限界、世界経済、日本経済、エネルギー政策、デジタル技術、格差の連鎖、地方議会の再建、そして30日は、外国人との共生。いずれの題材も、かなり地味。

茶の間に受けそうにないテーマに対して地道に意見する、それができるのは新聞、特に社説の強みだろう。そうするのが役割でもある。世相に媚びずに大切なことを見極め、これをどう考えるのだ、と問題を提起する。老舗のメディアとして、ぜひ、範を示し続けてもらいたいものだ。

さて、1/30週の六紙社説は、電力不正閲覧、広域連続強盗と闇バイト、中国ビザ再開、日産とルノー、ミャンマー政変2年、政府の財政試算、石垣市が尖閣調査、日NATO会談、児童手当の所得制限、米利上げ縮小、一票の不平等、マイナンバーの用途、富雄丸山古墳の副葬品などを話題にした。ぎりぎり荒井勝喜首相秘書官更迭も入った。

六紙社説、新年展望、23年(いずれもサイト内)。人新世|Wikipedia

この国はどこへ向かうのか

通常国会が召集され、首相による施政方針演説とそれに対する各党代表質問が行われた。在京六紙がどう書いているかを社説で見てみよう。各紙とも満足していないことがタイトルに表れている。

まず、首相の施政方針演説に対しては、「政策転換の説得力欠く」(東1/24)、「空疎に響く首相の決断」(毎1/25)、「反省なき決断の強調」(朝1/24)、「課題解決へ具体策掘り下げよ」(読1/24)、増税など「負担増含め政策実現の道筋を示せ」(経1/24)、「抑止力高める議論をせよ」(産1/24)。

今なぜ防衛強化を進めようとするのか、首相がそれを具体的に説明しないことに対する不満だ。敵基地攻撃能力と言うぐらいなのだから仮想敵があるはずだ。首相の考える敵は一体どこなのか。攻撃して来る可能性はどの程度なのか。もしあるとして、どのくらいの物量で攻め込んで来るのか。それに対抗するのに何がどれほど足りないのか。そんな当たり前の前提すら説明するつもりはないようだ。とにかくGDP比2%だか何だかの額ありき。議論するとしたらその財源ぐらいにしておきたい、ということなのだろう。

代表質問に関しても苦情が並ぶ。「堂々の議論には程遠い」(朝1/26)、「野党の提案や主張を一顧だにしない」(東1/26)、「反対ばかりでは議論深まらぬ」(読1/26)、「首相の国会軽視をただすべき」(毎1/27)、「国民守る議論が足りない」(産1/28)。

そう。国民を守る議論が足りないんだ。ミサイルが市街地に一発でも着弾しようものなら大変なことになる。とにかく安全保障は最優先の課題だ。しかし、先日の日米2+2で米オースティン長官は、台湾周辺での中国軍の活発化が「台湾侵攻が差し迫っていることを意味するわけではない」と述べたと報じられた。首相が提案する軍備増強はホントに必要なのか。平和憲法に基づく専守防衛の理念をあっさり捨てるのか。「価値観の違う国とも相互理解を育む外交の姿が見えない」(東1/26)ことも大いに気になる。

国会での深長かつ慎重な議論が求められる。今国会は、まさに「野党の力が試されている国会」(毎1/27)になるだろう。そう書く新聞各紙は、論点を整理するなど、しっかり援護をすべきだ。増税するしないなどの矮小な議論に陥ることは避けねばならない。国の姿が、これ以上、妙な形にならないよう、野党やメディアは全力を挙げよ(いつもエラそうに書いてすんまへん)。

さて、1/23週の六紙社説は、そのほかに、細田衆院議長と教団、一票の不平等、ウクライナへ戦車供与、国枝選手引退とパラスポーツ、大雪で立ち往生、電気料金値上げ、政府の財政試算、コロナ5類へ、トヨタ社長交代などを話題にした。

六紙社説(サイト内)。【訃報】目黒考二 逝去のお知らせ(1/25)、日米「2プラス2」台湾海峡の平和と安定維持の重要性確認(1/12)、「これでいいのか?“安全保障政策”大転換」▽ジャーナルクロス(NHKラジオ第1、1/27 20時)

野党は何をやっている

国会を欠席し続ける議員もいれば、1年ごとに議員を交代させようという党首もいる。

読売新聞の社説「れいわとN党 国会の議席はそんなに軽いか」(1/18)から。在京六紙の内、読売含め4紙が2党の破廉恥を社説で採り上げた(朝読産経)。残る2紙(毎東)の社説は今のところ沈黙している。

国会を欠席し続けるガーシー氏(NHK党)については、「懲罰委員会に付す」「のが妥当ではないか」(読1/18)。水道橋博士氏(れいわ新選組)の残り任期を5人で交代で担わせる党の構想は、「議員の職責を、あまりに愚弄している」。交代しようにも議員の辞職には議院の許可が必要、「理由が不明確な議員辞職を認めるべきではない」(産1/18)。

解散がなく「所属議員が6年間、腰を据えて活動することで、長期的な視点に立った良識の府」の役割を担う「参院の存在意義にも疑問符がつけられかねない。幅広い民意をくみとる手段として、比例代表をどう生かすか。政党の責任は極めて重い」(朝1/22)。交代制や長期の欠席は「選挙の結果や国会活動の軽視にほかならない」(経1/21)。

いずれも民主主義の根幹に関わる由々しき事案だ。各紙の社説は、なぜ、もっと厳しく書き立てないんだ。特に左派系にはお得意の民主主義云々の議論じゃないか。野党だから大目に見ているのか。

日経は、この2件について意見する一方、言われて久しい野党の弱体化について改めて指摘する。野党は、「政権運営に緊張感を与え、権力を監視する役割は重要である」にも拘わらず、難しい課題が山積する中、「政策面で明確な対立軸を示せずにいる。政府への対決姿勢だけでは議論は深まらない」(経1/21)。

本来あるべき機能を十分に果たせない不見識な野党(や新聞)がのうのうとしている。それは今この国が妙な方向に向かっていることと無関係ではあるまい。

さて、1/16週の六紙社説は、そのほかに、阪神淡路大震災から28年、行政デジタル化、人口減に転じた中国、経団連春闘方針、日銀大規模緩和維持、博多ストーカー殺人、東電元幹部無罪判決、JAXA不正、コロナ「5類」移行、認知症新薬の承認申請、少子化対策などを話題にした。

六紙社説、国内マスコミの根本課題(いずれもサイト内)。やり放題ガーシーにも、のんきな参院にも驚き(政界地獄耳、2022/12/10)

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