Re3:「ロウソクの科学」
- 2025/12/25 06:43
- カテゴリー:読み物
ファラデー著「ロウソクの科学」、◯◯風の邦訳、その3。森鴎外風。
Gemini(AI)による翻案を、2025/12/21に実施。次のように依頼した。
Q)森鴎外風に、特に鴎外の「渋江抽斎」の文体を意識して、同じ5箇所の邦訳をお願いできないでしょうか
すると、「『渋江抽斎』は、漢文調の硬質な文体、事実を淡々と記述する客観性、そして注釈的な表現が特徴です。それを踏まえ、科学的記述に適用します。」と、森鴎外風の翻案を生成してくれた。続いて、久生十蘭風で邦訳をお願いした。その結果を見て、再度依頼した。
Q)この久生十蘭風は、どこか、さきほどの森鴎外「渋江抽斎」風と似ている感じがしますね。久生十蘭と鴎外の違いを意識して、もう一度、鴎外「渋江抽斎」風をやり直してもらえないでしょうか
「ご指摘の通りです。先ほどの鴎外調は語彙が硬いだけで、久生十蘭のような装飾性との描き分けが不十分でした。森鴎外『渋江抽斎』の真骨頂は、徹底した即物主義(レジスタンスとしての没理想)にあります。感情を排し、事実を淡々と、まるで戸籍抄本や履歴を書き写すような考証的・即物的なリズムこそが特徴です。十蘭のような妖艶さや劇的な演出は一切排除されます。感情の起伏を排した『抽斎』風の硬質な叙述でやり直します。
森鴎外『渋江抽斎』風:『蠟燭の科学考』
1. 冒頭、科学への入り口について
格致の学に入るに、蠟燭の物理的現象を究めるより捷径なるは無し。其の門戸の広きこと、他に比類を絶てり。余は先ず此れより説き及ぼさんと欲す。
2. ロウソクの合理的な仕組みについて
液体は其の中に保持せらるるも、其の杯は固定せる器物にあらず。此の現象、器物其のものよりも寧ろ驚嘆に値す。実体無き器に液を貯ふるは、物理の妙と謂ふべし。
3. 毛細管現象の説明
水の上昇するを見るべし。是れ自然の賦与せる自由の一態なり。自然は常に斯くの如き定則を以て、我等にその事象を呈示するものなり。
4. 炎の中の炭素粒子について
蠟燭の燃料中には、微塵存在せり。燃焼の作用を以てするも、之を完全に排除すること能はず。物質の固有せる性質、終に改むべからざるものあり。
5. 講義の結びの言葉
講義は終局に達せり。事物の終止は免るべからざる勢ひなり。余が諸君に望む所は、其の世代に於いて、諸君が自ら蠟燭に比すべき存在たらんこと、唯此の一事のみなり。」
冒頭にある格致の学(かくちのがく)とは、物事の道理や本質を深く追求、理解し、知識や学問を深めること。儒学の教え「格物致知」に由来する言葉だとか。
つづく
追記)今回の翻案は、漢文の書き下し風だったので、いっそ漢文にしてくださいと頼んでみた(12/25)。すると、
「入格致之学、未若究燭之物理為捷径也。其門戸之広、無与為比。余欲先従此説之。液体保持其中、然其杯非固定之器也。此現象、寧比器物本躰、更為可驚。貯液於無実体之器、謂物理之妙也。視水之上升。是自然所賦自由之一態。自然常以此定則、呈示其事象於我也。燭之燃料中、存有微塵。雖以燃焼之作用、不能全排除之。物質固有之性質、終不可改。講義既達終局。事物之終止、勢不可免。余所望於諸君者、唯在其世代、諸君自為可比於燭之存在而已。」
さらに、これから、できるだけ押韻や対句を盛り込んだ、七言律詩への変換を依頼した。
「七言律詩:燭理学致(燭理をもって学を致す)
入道格致究燭理 (格致の道に入るに 燭理を究め) [首聯]
広開門戸絶倫比 (広き門戸は 倫比を絶したり) [首聯]
無形器貯随法液 (無形の器は 法に随(したが)う液を貯え) [頸聯:対句]
有則天呈自然体 (有則の天は 自然の体を呈す) [頸聯:対句]
不滅微塵存燃料 (微塵は滅せず 燃料の中に存し) [頷聯:対句]
難改本性是終止 (本性は改め難く 是(これ)終止なり) [頷聯:対句]
講義既成皆遺嘱 (講義は既に成りて 皆遺嘱なり) [尾聯]
諸君身合比燭光 (諸君の身は 合(まさ)に燭光に比すべし) [尾聯]」