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カテゴリー「読み物」の検索結果は以下のとおりです。

おくま嘘歌

  • 2025/06/12 06:22
  • カテゴリー:読み物

歩こうとすれば歩けるようにもなったが、高箒で庭を掃いていて石につまずいて転んで、それがもとでまた寝ついた。

主人公の「おくま」は、半年ほど寝込んでやっと回復。やめとけば良いものを庭に出て掃除をする。そういうことをしないではいられなかった。が、転んでまた病床へ逆戻り。

荒川洋治編「昭和の名短編」(中公文庫、2021年)に所収されている、深沢七郎著「おくま嘘歌」(1962年)から。

おくまは、このあと、そんなに日を置かずに死んでしまう。それを読んで、何とも言えない気持ちになった。最近、同じように、庭で転んでまた寝込む話を、身近で聞いたばかりだったので。

近頃、暇があればLinuxで遊んでいる。手段が目的になってしまってあまりよろしくないと思う。それとまた同時に、読み物の数が減っていることも気にしている。旅に出る時ぐらいは道中で読むだろうと、先月、二度の帰省では何冊か図書館で借りて持って出た。この短編集もその一冊。編者の名が目に留まって棚から抜き出した。

荒川洋治(サイト内)。佐多稲子「水」、三島由紀夫「橋づくし」

六厩越え

  • 2025/04/22 05:57
  • カテゴリー:読み物

高山市の荘川町六厩(むまや)地区で、約11万平方メートルの用地に金属くずやアスベスト(石綿)、ダイオキシン、水銀などを、26年間埋め立てる。

中日新聞の社説「岐阜の産廃計画 将来に禍根のないよう」(4/19)から。岐阜県高山市の山間部に産廃処分場を建設する、そんな計画が進んでいる。

六厩という地名に見覚えがあると思った。そう、久生十蘭の「生霊」に登場する。

東京を出たのは五月だったが、木曾福島で長逗留をし、秋風の声におどろいて、ようやく木曾川を西へ渡った。高山の月を眺めてから富山へぬけ、能登の和倉で秋ざれの日本海の海の色を見るつもりだった。六廏越をし、荻町へ着いたのは、ちょうど旧暦のお盆の前の日だった。

主人公の松久三十郎は、木曾福島まで旧中山道をやって来たのだろうか。そこで街道を離れて北へ向かい、高山、六廏を経て、荻町へたどり着く。この荻町はいったいどこだろう、調べてみた。なんと、合掌造り集落で有名な白川郷の地区のこと。三十郎が経験した不思議な物語は、白川村を舞台にしたものだったのだ。

なお、荻町は「おぎまち」、六厩は社説にあるように「むまや」、現在は各々そう読ませるようだ。が、青空文庫では、「おぎのまち」「むんまや」とルビが振られれている。

久生十蘭(サイト内)。久生十蘭「生霊」|青空文庫

あなたが誰かを殺した

  • 2025/04/21 06:04
  • カテゴリー:読み物

薬剤師はAIには到底かなわない。何しろ向こうは膨大なデータを持っているからね。だからといって人間の薬剤師が不要になることは永遠にありません。AIにはお節介という機能がないから

東野圭吾著「あなたが誰かを殺した」(講談社、2023年)から(p35)。昨年8月に図書館に予約を入れた段階で83人待ち。ようやく順番が回って来た。

高級別荘地で連続殺人事件が発生。と来れば、たまたま、そこに、名探偵など謎解き役が居合わせた、となりがち。その手の推理小説は少なくない。が、著者の場合、そんな安易な設定は採らない。それにこれは加賀恭一郎シリーズ。一風変わってるが説得力のある理由で加賀を登場させる。

その仲介に、金森登紀子が出て来る。映画「祈りの幕が下りる時」(2018年)で、その役に扮した田中麗奈の顔が思い浮かんだ。

加賀恭一郎シリーズ(サイト内)。第3作「どちらかが彼女を殺した」、第5作「私が彼を殺した」

暴力の人類史

  • 2025/04/15 05:46
  • カテゴリー:読み物

私たちが今日ある平和を享受できるのは、過去の世代の人びとが暴力の蔓延する状況に戦慄し、なんとかそれを減らそうと努力したからであり、だからこそ私たちは今日も残る暴力を減らすために努めなければならない。

引用は、スティーブン・ピンカー著「暴力の人類史」(上巻)幾島幸子・塩原通緒訳(青土社、2015年)から(p20)。最寄り図書館で分厚い上下二冊を借りて来た。

歴史的に見て暴力は確実に減少している。本書では以下の視点でそのことが語られる。

6つの背景。1) 農耕社会への移行、2) 中央集権制、3) 系統的な平和主義、4) 先進国の多くが戦争を避けるようになった、5) 冷戦の終結、6) マイノリティ権利擁護。

5つの悪。1) 略奪や捕食、2) 支配欲、3) 報復や復讐、4) サディズム、5) イデオロギーによる暴力の正当化。

4つの善。1) 同情、2) 自制、3) 道徳心、4) 理性。

5つの社会的変化。1) 司法制度、2) 比較優位に基づく通商、3) 女性の尊重、4) 異人への共感、5) エスカレートする理性。

最終章では、「囚人のジレンマ」ならぬ「平和主義者のジレンマ」の四象限マトリクスを用いて総合的な考察がなされている。

治安は悪化しているのか(サイト内)。「磔刑はペルシャで考案」「暴力はおおむね男性の気晴らし」

THE 陰翳礼讃

  • 2025/04/05 06:16
  • カテゴリー:読み物

秋、紅葉すると言いながら、そう簡単に美しい紅葉があるわけじゃない。手入れが要る。日本人は生活の中に沢山の手入れをする。そして、それを愛でながら生きて来た民族だ。

建築家・安藤忠雄氏が語る。NHKの番組「THE 陰翳礼讃 谷崎潤一郎が愛した美」から。

日本人は生活の中に沢山の手入れをする。和室、障子越しの光が美しい。それも人々の心がそこに籠められるているからだ。暗さも明るさも双方を備えた陰翳が、心の宿る場所をつくり出す。我々日本人は、それを知っている。そういう豊かな、精神の豊かな、場所に住みたいと思う。と。

谷崎潤一郎が「陰翳礼讃」でどう書いているか見てみよう。「われわれ東洋人は何でもない所に陰翳を生ぜしめて、美を創造する」。「いかに日本人が陰翳の秘密を理解し、光りと蔭との使い分けに巧妙であるかに感嘆する」。

その建築家は、日本人は、日本人は、と語っていた。一方、谷崎は、日本人と東洋人、両方の言葉を使っている。きっちり区別しているのか、にわかには判らない。今度また丁寧に読んでみることにしよう。

世界に響け職人の心意気(サイト内)。谷崎潤一郎「陰翳礼讃」|青空文庫、「THE 陰翳礼讃 谷崎潤一郎が愛した美」(NHK総合、3/29 0:50-)、「攝陽随筆」(1935年)

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