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カテゴリー「読み物」の検索結果は以下のとおりです。

Re: 消えた弟

  • 2022/08/30 06:21
  • カテゴリー:読み物

実際に自分がその場に居合わせたかのように、わたしは缶詰工場の火事のことを憶えている。葬儀の日のことを憶えている。祖母の悲しみを憶えている。

祖母に何度も何度も聞かされるうちに自分の記憶のようになっていった。自分はまだ生まれてもない、ましてや母が結婚もしていない過去のことなのに。引用は、マネット・アンセイ著「消えた弟」坂口玲子訳(文芸春秋、1999年)から(p179)。

久生十蘭著「生霊」のことを連想した。主人公の松久三十郎は、遺族と話すうちに、台児荘で戦死したその人物自身ではないかと不思議な気持ちになって来る。「決死の突撃に移る十分ほど前、水濠の岸に生えている枯れた野菊を写生したという関原準尉の行動が、自分がそこでそうしたように、しっかりした記憶の中から思い出されて来るのだった」。

消えた弟(サイト内)。久生十蘭「生霊」|青空文庫

消えた弟

  • 2022/08/26 06:22
  • カテゴリー:読み物

たぶんそのころだったのだろう、数字に脅えるようになったのは。首の曲がった邪悪な7。妊娠した6。忍び笑いをする2。ぼやけた数字がページから立ち上がって、激しく脈打つ黒い肺のように膨らんだりしぼんだりする。

マネット・アンセイ著「消えた弟」坂口玲子訳(文芸春秋、1999年)から(p84)。

数字ではなかったけれど、何かの文字に脅えた覚えがある。小学生の頃だ。身近にあった本の挿絵や、衣紋掛けにぶら下がっていた何かが恐ろしかった時期もある。反対につまらない物にちょっと心がときめくようなこともあった。主人公アビーが語る過去のエピソードに刺激されて、古い記憶が芋づる式に出て来る。そんな不思議な体験ができる物語だ。

読みたい本リストの底の方にあった。確か、目黒考二氏のおすすめをメモしたのだった。

# プロコフィエフのピアノ・ソナタ(p196)

これでいいのだ人生相談

  • 2022/08/24 06:01
  • カテゴリー:読み物

何が起きても驚かないというところがある。今まで生きていた場所を離れて、すべてを捨てて歩き出したはいいが、行きつくところがどこかもわからなかったわけだから。

赤塚不二夫×立花隆、意外な組合せの対談。お二人とも大陸からの引き揚げ組。引用は、赤塚不二夫の「これでいいのだ!!」人生相談(集英社、1995年)から(p166)。対談時期は95年春頃のようだ。

赤塚さんが読者からの質問に答えて好きな映画(監督)を並べている(p203)、洋画ベスト10!と邦画ベスト10!。どちらも無難なラインナップ。これを見て、赤塚不二夫の才能は持って生まれたものなのだろう、と妙に納得した。

これは最寄り図書館で除籍になったリサイクル本。この一年ほどでもらって来た本は、このほかに、知的生産の技術、日本の名随筆別巻8、株価暴落など。時々拾い物がある。

# 赤塚不二夫(1935-2008)、立花隆(1940-2021)

元彼の遺言状

  • 2022/08/19 06:15
  • カテゴリー:読み物

「ねえ、正直に話してよ。怒らないから」。騙されてはいけない。「怒らないから」と言って本当に怒らなかった女を私は見たことがない。

新川帆立著「元彼の遺言状」(宝島社、2021年)から(p165)。家人が読んでいた雑誌で紹介されているのを見て図書館に予約した。順番が回って来るのに5か月待った。

2021年第19回「このミステリーがすごい!」大賞受賞作とか。こういう作品が世の中に求められるんだな。正直ぴんと来なかった。主人公はもちろん登場人物の誰にも感情移入できないし、物語にハラハラドキドキもない。寝そべって読んでいると眠ってしまい読み終えるのに時間がかかった。性に合わない、のか、今どきの感覚について行けない、のか、いずれにせよこっちの問題だ。

# セロハンテープと理屈は何にでも付く(p58)

ルール

  • 2022/08/17 06:06
  • カテゴリー:読み物

むしろ、統一されすぎた言語は人を容易に欺く。対象の姿を自在に欺瞞してしまうそれは諸刃の剣だ。退却を転進にし、集団自殺を玉砕にし、敗北を勝利にする。そんな偽りの言葉を必要としてしまう人間の集団など、所詮老いを化粧で誤魔化しているだけだ。

古処誠二著「ルール」(集英社、2002年)から(p284)。終戦の日に読んだ。敗戦ではなく終戦の日に。

戦争小説だとは知らなかった。と言うか忘れていた。読みたい本リストの下の方にタイトルと著者名だけがあった。図書館から借りて来て開く前にはスポーツものだろうかと思ったりもしたものだが読んで驚いた。帯に「慟哭」の文字がある。実際、そうしてしまいそうな場面がいくつかあった。

タイトルになった「ルール」という文字は一度だけ登場する(p206)。それは、尊厳や、人間的な反応、羞恥、と形を変えて繰り返し語られる。

鳴神中尉、姫山軍曹、八木沢一等兵、そしてオースティン・スミス大尉、しばらく彼らのことを考えて過ごすことになりそうだ。

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