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カテゴリー「読み物」の検索結果は以下のとおりです。

畏るべき昭和天皇

  • 2022/05/28 06:22
  • カテゴリー:読み物

在ることの証明は容易であるが、無いことの証明はそう簡単ではない

松本健一著「畏るべき昭和天皇」(毎日新聞社、2007年)から(p219)。

〈記憶の王〉がその記憶に強く刻み付けながらも、決して口に出したくない人名、その第一は北一輝だろう。と、二・二六事件を深く研究した著者が、〈記憶の王〉と北一輝を結び付ける。引用部分を読むと、口に出さなかったことがどう証明されるのか期待してしまうけれど、事実として「口にしたことは、ない」とだけ記されている。

「御聖断とは、何か」(p27)。一つは、二・二六で蹶起した青年将校らを反乱軍とみなし討伐したことであり、一つは、ポツダム宣言を受諾し米英との戦争に降伏すると決めたことであった。

降伏より前に、そもそも米英との無謀な戦いを避ける「もう一つの御聖断」(p45)があり得たのではないだろうか。和平を希求し一貫して外交交渉を主にせよと意見していたのだから。結局のところは、大本営が戦争を決め政府が同意していては開戦を裁可するしかなかった、と著者は記す。

遡ること十数年前、張作霖爆殺事件(昭和3年、1928年)に際し、責任者処罰の前言を翻して「うやむや」に処理しようとした田中義一首相を叱責し辞めさせる。この人事は立憲君主制から逸脱している、と元老の西園寺公望に咎められる(p137)。田中がすぐ後に悶死したこともあって(p39)、それ以後は閣議決定には意見はするが拒絶しないと心に決める。また、大本営が決定し政府が同意した開戦に反対すれば、軍部が二・二六の時と同じようにクーデターを起こすことが懸念された(p61)。これらが、もう一つの聖断が下されなかった理由だったと。

明治の名将らとは違って、昭和の東条英機・陸相(首相)らは、「大局を考へることができなかったし、戦争を止めるときというのも知らなかった」(p237)。ふと、「降る雪や明治は遠くなりにけり」が頭をよぎった。中村草田男がその句を詠んだのは、昭和6年のことだったらしい。日本が足掛け15年に渡る戦争をおっ始めた年だ。

著者の「明治天皇という人」「原敬の大正」、そしてこの「畏るべき昭和天皇」と読み進め、日露戦争と一次大戦に勝ち増長して行くわが国の姿をざっと追った。歴史にifはないと言うけれど、例えば、原敬が暗殺されなければとか、大隈重信が対支二十一か条要求を強行していなければとか、伊藤博文がもっと完成度の高い憲法を作成していたらとか、山縣有朋が統帥権など唱えなければとか、維新三傑が長く活躍していればとか、そんなことを思ってしまう。国も組織も勝手に動く装置ではない、誰かの意思によって動く、それを改めて思い知った。

松本健一(サイト内)。張群|Wikipedia、春秋(2020/1/3)|日本経済新聞

任俠学園

  • 2022/05/26 06:25
  • カテゴリー:読み物

人間は、なかなか日常から抜け出すことができないものです。惰性というものは恐ろしいもので、誰も腐りきった日常を打破しようとはしません

今野敏著「任俠学園」(中公文庫、2012年)から(p337)。

任俠シリーズ第2作。このシリーズも面白い。無理のある題材で、だいぶ書き難いと思うのだけれど。

今野敏(サイト内)。任侠シリーズ特設ページ|中央公論新社

読書の効用

  • 2022/05/25 06:32
  • カテゴリー:読み物

きのう(5/24)ここで採り上げたスティーヴ・ハミルトン著「解錠師」では、「まちがった相手に対して」云々を抜き書きした。その箇所を目にして、はっと思うことがあった。

自分の会社人生の中で、あるパターンが繰り返されていたことに気付いたのだった。数えてみると、20年ほどの間に5回は起きていた。これまでにも、何となくぼんやりとイメージしていたかもしれない。それが言語化され、しっかりと意識に上って来た。

自分が過去に経験したことや見聞きしたことに関してパターンを認識しその原因や意味を理解する、これもまた読書の効用だろう。洞察を得る、と言えば良いだろうか。作家や学者などの書き手は、ぼんやりとしたイメージを言語に置き換える技能を多かれ少なかれ有している。彼らが書く文章そのものずばりや、それから想起されるヒントが、洞察を得るきっかけとなる。

本を読んでいて、洞察を得るほどではなくても、何かに気付くことはある。それは、知識や情報を得ようとして手にする小難しい書物やノウハウ本から、とは限らない。ハラハラドキドキする冒険小説や、推理もの、サスペンスなど、単に愉しみのために読む本に教えられることが少なくない。今回の「解錠師」のように。

解錠師(サイト内)

解錠師

  • 2022/05/24 06:29
  • カテゴリー:読み物

まちがった相手に対して自分が有能だといったん証明してしまったら、二度と自由にはなれない

主人公マイクは、どんな金庫でも開くことが出来る才能の持ち主。悪い奴らにいいように使われる。引用は、スティーヴ・ハミルトン著「解錠師」越前敏弥訳(ハヤカワ・ミステリ文庫、2012年)から(p343)。

訳者があとがきにこう記す。「ふたつの時間を行き来しながら描かれる」「終盤になってふたつの時間が近接してきてからのスピード感は格別」。ほんとそう思う。

脇役のハリントン・バンクス、いったい何者なのかマイクは気付いている(p375)。その人物が、5つのポケットベルの内3つまでその番号を知るに至る(p401)。なぜ知ることができたのか、想像を掻き立てられる。

文庫100冊(サイト内)

檻の中の女

  • 2022/05/20 06:21
  • カテゴリー:読み物

意識の中に過去と通じるトンネルがあるとしたら、それを開通させることは可能だろうか。意識の深いところに手がかりが埋もれていて、誰かに正しいボタンを押してもらうのを待っているのだろうか。

もしかしたら事件を解くヒントになるかもしれない。主人公カールは何かを感じて、部下のアサドに資料をかき集めるよう命じる。引用は、ユッシ・エーズラ・オールスン著「特捜部Q-檻の中の女」吉田奈保子訳(早川書房、2011年)から(p157)。シリーズ第1弾。既に第8作まで出ている。次を借りて来よう。

ラース・ヘンリク・イェンスン、それはデンマーク人のカールには「なんて平凡な名前」と映る。一方、シリア人のアサドは「変な名前ですね。そんな名前の人はあまりいないでしょう」と言いながら捜査資料の中にあったある名を思い出す。

舞台となったデンマークには行ったことがある、マドリードへ向かう途中に。往路、コペンハーゲンからの乗り継ぎ便が翌朝だったため空港ビルのホテルに泊まった。夜、数キロ向こうの首都の街へ行ってみようかとも考えたけれど、そうするにはあまりにも疲れていた。結局、乗り換えで立ち寄っただけになった。

2009/10/11 11:40 NRT-CPH SK984 A340-300 OY-KBC
2009/10/12 09:15 CPH-MAD SK581 MD82 SE-DIR
2009/10/17 11:10 MAD-CPH JK27 A320-200 EC-HRP
2009/10/17 15:45 CPH-NRT SK983 A340-300 LN-RKF

文庫100冊(サイト内)。プットガルテン港(p65)、イケア(p387)、ノボ(p391)

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